和の匠探訪記vol.1「野菜の匠」

和の匠探訪記タイトル

野菜の匠

堀越 一仁 さん

堀越一仁写真

  • 農事組合法人 かんらん車 代表
  • 千葉県成田市
  • 主要な生産品:小松菜、人参、さつまいも、など(すべて無農薬・無化学肥料で栽培)
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 昭和4年生まれの父の農業を受け継いだ2代目の堀越一仁さんは、千葉県成田市で無農薬、無化学肥料栽培の中心的存在として、日々、畑で野菜や土と対話しながら農業を営んでいます。

 堀越さんの畑があるこの地域は山の尾根(頂上)に位置する首都圏の中では寒冷地で、関東ローム層という良質な土壌と地下水に恵まれた自然環境の中にあります。
 近くには「多古米」で有名な多古町があり、昔から米や麦づくりが盛んに行なわれてきました。

 昭和30年代から成田空港建設で揺れた成田市で育った堀越さんは、高度経済成長に伴う食料の増産体制の中で、国の推奨のもとに大量に消費されていく農薬や化学肥料を使った近代農業に疑問を持ち、無農薬・無化学肥料の野菜作りを始めることになります。

 化学肥料は少量入れただけで大量の作物が収獲できるから、農家は収穫量を上げるために使用する。しかし、化学肥料を多く使用した作物を食べ続けると、人間がキレやすくなったり、アトピー性皮膚炎など健康面への影響が懸念される、と堀越さんは指摘します。

 また、作物が虫に喰われたからといって農薬を農地全体に散布する農家がいる。農薬に頼らなくても、虫が出た部分の作物だけを刈り取るなど、その部分だけで対処できる。虫が来るということは、あくまでもその部分の土壌の栄養バランスが偏り、過剰にチッ素が多いからだと説明してくれます。

 そんな農薬や化学肥料に依存しない、堀越流の農業を徹底取材してきました。

おいしい野菜は土作りから
堀越さんの畑
 堀越さんは徹底した土づくりにこだわります。
 野菜にとって堆肥はご飯、肥料はおかずのようなもので、人間と同じく、どちらかに偏らずにバランス良く野菜に摂取さすことが大切だと言います。

 ところで皆さんは、野菜(植物)に必要な栄養素とは何かご存知ですか?
 全部で16種類ほどあるそうですが、特に多く必要な栄養素がチッソとリン酸とカリウムです。簡単に言うと、チッソは葉野菜、リン酸は実野菜、カリウムは根菜にとってそれぞれ重要な栄養素です。

 堀越さんは年間を通して多種多彩な野菜を栽培していますが、葉野菜を多く作っているので、チッソの調整が重要なようです。
 チッソを肥料として与えすぎると、野菜が吸収しきれなかったチッソにつられて害虫が発生し、地下水などの自然環境も汚染してしまいます。
 チッソ肥料を与えすぎると害虫が発生するから農薬をまいて駆除し、再び窒素肥料を与えすぎるからまた害虫が発生し農薬をまく・・・そんな悪循環に陥ってしまう場合が少なくないそうです。

 だからこそ堀越さんは、まずは良い堆肥を自家製で作って余分な窒素を畑に入れず、野菜自身の生育力を促して抵抗力を増進させることで、ミネラル分が豊富で旨味が凝縮された無農薬野菜を作り出しています。

 野菜は土から栄養分を吸収して成長するので、畑の中の栄養バランスが変化し、偏ってしまうことがあります。そこで堀越さんは頻繁に土壌の栄養分をチェックし、足りない栄養分のみを堆肥や有機肥料で調整し野菜にとって最適な畑の土づくりをしているのです。
 自然を尊重し、自然の力を借りて野菜を育てていく、日本流の適地適作ですね。

有機野菜だからといって安心できない
 堀越さんは農薬や化学肥料を全く使用しない作り方です。
 ところで皆さんも普段、有機農法や有機野菜という言葉をよく耳にすると思います。有機農法は農薬や化学肥料を極力使用しないため、有機野菜といえば安全・安心と思われる方が多いと思います。

 そんな有機農法について、一概に有機といっても、必ずしも全てが安全とは限らない。野菜はチッソがないと育たないが、未熟な堆肥を使用した場合、堆肥の腐敗によって、かえってチッソ分を多く含んだ野菜が育ち、そのチッ素分が身体に悪い影響をもたらす恐れもある。だから有機といった言葉に惑わされることなく、微生物の力で堆肥をしっかりと熟成させている農家が作った野菜なのかどうかを見極めることが何より大切だ、と堀越さんは指摘をします。

 消費者の皆さんが農家を見極めることは困難でしょうから、私たち販売者に向けられた言葉なのでしょう。

 堀越さんの堆肥は発酵と熟成がしっかりとされているため、臭いもきつくなく、手を入れると少し熱いことに驚きました。
 長い経験と研究によって培われてきた堀越さんの堆肥づくりの技は各方面から注目を集め、その堆肥を求める声が後を絶たないというのも納得です。

安心・安全への妥協なき挑戦
豊かに実った堀越さんの畑
 そうした堀越さんの安全へのこだわりは、チッソに限られたものではありません。
 消費者へ安心・安全な農産物を届けるため、福島の原発事故以後は放射能の定期的な測定も心がけています。
 特に事故直後は放射能を頻繁に測定したそうですが、堀越さんの畑や農産物からは放射能が検出されることはなかったそうです。
 地域の農家の中には放射能が検出されたところもあるようで、その違いを堀越さんは、有機農法には微生物などによって放射能を分解する力が備わっているからではないだろうか、と語ります。

堀越農業の未来
 堀越さんは現在、農業に携わる後継者の指導と育成にも力を入れています。
 経済的にも働いた分だけきちっと収入を得ることができる「食べられる農業」を確立しないと将来の農業者は育たないという信念があるからです。
 また、おいしくて安心で安全な野菜を作り、消費者に食べて喜んでもらうという「つくる喜び」を、農業に携わる者たちが感じられる農業にしなければならないと熱く語ります。

 堀越さんが代表を務める「農事組合法人 かんらん車」は、無農薬や有機栽培を志す若手農業者を集めて1998年に結成されました。成田市とともに循環型農業を推進し、官民一体となった大きな広がりを見せはじめています。

 野菜の匠・堀越一仁さんが作る野菜は、野菜本来の旨味が凝縮され栄養分も豊富で安心かつ安全な和の逸品です。
 堀越さんが丹精込めて育てた野菜を「和の逸品掘り出し隊」では「匠が作った和の野菜 詰め合わせBOX」を通じて皆さまにお届けしていますので、ぜひご堪能いただきたいと思います。
(記事:丸大&洋一)

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