和の匠探訪記記事
和の匠探訪記vol.4「ドライフルーツの匠」
ドライフルーツの匠
町田 和幸
さん
- (有)玉井フルーツ店 社長
- 長野県上田市中央
- 主要な生産品:ドライフルーツ(国産無添加)
真田幸村の故郷、長野県上田市
今回訪れた「和の匠」は、長野県上田市の中心街、上田駅から徒歩で数分のところで営業する「玉井フルーツ店」さんです。上田市といえば、平成28年のNHK大河ドラマ「真田丸」でも有名になった真田家の旧本拠地としても知られています。
上田城見学や真田家ゆかりの地を巡る観光客でにぎわう市内の各商店は、真田家の家紋である六文銭一色です。
様々な業種が様々な趣向を凝らして六文銭をモチーフにした商品を販売しています。雑貨類はもちろん、お菓子や洋服や飲食店のメニューまでもが六文銭の大合唱なのは何とも微笑ましい光景です。中には、ただ丸型を6つ並べただけ!と突っ込みたくなる商品もありますが、そこはご愛敬。
そんな真田フィーバーの中、大通りの一角に玉井フルーツ店が控えめなたたずまいでお客様を迎えています。
店内に入るや目に飛び込んできたのは、やはりこちらにもありました、六文銭の化粧箱に飾られたドライフルーツが。
ここまで地域ぐるみで「真田押し」を徹底している上田の人々の真田愛には感服させられます。そういった郷土の宝があることがうらやましくも感じられます。これからも熱い真田愛で地域を盛り上げてください!
さて、店内には多種多様なドライフルーツが所狭しと置かれています。ナッツ類や外国産のドライフルーツなども置かれていますが、店の真ん中には「信州産」と銘打たれた大小のドライフルーツがたくさん陳列されています。
和の逸品掘り出し隊の今回のお目当てはこちらの商品です。
私たちがよく目にするドライフルーツといえば、アメリカやトルコや台湾などの外国産が主流ですが、玉井フルーツ店のこだわりは何といっても、原料から生産まで全て国産でまかなうことにあります。
特に長野県は、ぶどうをはじめとした様々な果物の名産地としてよく知られており、豊富な種類と量の果物が県内で広く生産されています。
玉井フルーツ店は、地元長野県の果物を中心に、今では、日本全国から美味しい旬の果物を取り寄せてドライフルーツを作っています。
そしてもうひとつの重要なこだわりが無添加製法です。
海外産などでオーガニック素材のドライフルーツを見かけることはありますが、無添加のドライフルーツをあまり目にすることはありません。それだけ製造が難しく流通量が少ないということなのでしょうか。
国産果物を使用し、かつ無添加で作られる玉井フルーツ店の希少なドライフルーツ。
ビタミンや食物繊維が豊富に含まれ、美容と健康に良いことから女性を中心に大人気のドライフルーツですが、これに安心と安全が加われば鬼に金棒のドライフルーツが完成しそうです。
そんな玉井フルーツ店の町田和幸社長にお話を伺い、こだわりのドライフルーツの真髄に迫っていきます。
3代目として家業を継ぐ
大型店の進出や都市部への人口流出など、時代の流れに伴い売り上げが伸び悩む中、先代から果物店を受け継いだ町田さんは打開策を模索します。
考えついたのが、果物店を営んでいる強みと乾燥した上田市の気候という地域の特色を掛け合わせ、ドライフルーツを作って販売するということです。
元来日本では、果物は生で食すものというのが大方でしたが、海外からドライフルーツが輸入されて市場に出始めたことで、徐々に国内で認知され始めたこともヒントになったようです。
しかし当時は、国産のドライフルーツがほとんど存在しないといわれた時期で、新事業のために参考になる事例もほとんどなく、日々失敗の連続だったそうです。
そこで町田さんはドライフルーツの本場である海外視察に活路を見出します。特にアメリカと中国では実際に生産現場に入らせてもらい、ドライフルーツ作りの習得に励みました。
アメリカの現場では、巨額の設備投資をされた巨大プラントと、国土の広さを活かして大量生産された果物を原料に、工業力を駆使したドライフルーツが量産されていました。
プルーンの木は地平線を覆うほどに生い茂り、実を大きな重機でたたき落とします。収穫されたプルーンは巨大で高価な種抜き機に入れられて加工されますが、その合理化された作業と規模には驚かされたそうです。
中国では生産コストが安い大量のドライフルーツを生産していました。見上げるほど大量に積み上げられた果物に二酸化硫黄で防腐処理をし、人口の多さと低賃金の労働力を駆使した人海戦術で加工が行われます。
こうした海外の現場を目の当たりにした町田さんは、人口も国土面積も果物の産出量もアメリカや中国より少ない日本で、それらと同じ生産方法を採用することができないことを痛切に実感します。
日本でも実現可能な生産方法の確立という新たな問題に直面した町田さんのチャレンジが始まります。
良質な国産果物は無添加だからこそ美味しい!
町田さんは、ドライフルーツをおいしく作る重要な要素は「甘さ」「酸味」「香り」だといいます。
海外のドライフルーツは、使われる果物自体の味や風味の薄さを補うため、「甘さ」「酸味」「香り」を添加物によって補強し、見栄えを良くするために着色料で色付けしている品が多く、「果物をドライ化したもの」というより「お菓子」としてのドライフルーツが主流だそうです。
確かに海外産のドライフルーツは甘みがとても強く、色もはっきりしているものが多い気がします。
比べて日本の場合は、もともと果物本来の味が格段に良いため、その良さを活かしたドライフルーツを作ることが肝心だと町田さんは考えました。
そのためには、既存のドライフルーツとは異なり、余分なものを加えない無添加で加工することにより、果物本来の「甘さ」「酸味」「香り」を引き出すことができ、国産ならではのドライフルーツができるはずだと直感します。
海外産のマネをして下手に添加物を加えると、せっかくのおいしい国産果物が台無しになってしまう。日本人としての矜持と果物屋としての知識と経験が町田さんにそう思い至らしました。
海外視察を経験するにつれ、地元の長野県をはじめとした国産果物が持つポテンシャルの高さを再認識し、国産果物への誇りとこだわりを強く持つようになりました。
こうして国内初と言っても過言ではない無添加国産ドライフルーツの生産が開始されるのです。
難度の高い無添加へのこだわり
添加物を加えてドライフルーツを作る理由のひとつに、保存性を向上させることが挙げられます。特に流通の面から考えると、消費期限が長いほうが業者は商品を扱いやすくなります。
また、海外の生産現場で体験したように、備蓄されて加工を待つ大量の生の果物を腐らせないようにするためには、添加剤で防腐処理をせざるを得ません。
そういった理由もあり、保存料や酸化防止剤や防腐剤などを加工段階で添加する場合が多くなるのです。
一方、玉井フルーツ店のドライフルーツは無添加にも関わらず2年以上の保存性を有することが専門機関の検査でわかっています。2年以上もの保存性があれば、わざわざ添加物で保存性を上げる必要がありませんね。
そもそもドライフルーツは、生では傷みやすい果物を乾燥させることで保存性を良くした食べ物です。紀元前から非常食や保存食として珍重されてきたのも、美味しさや手軽さといった特長以外に保存性の良さもあったからです。
また、包装技術の向上も品質の保持に大きく貢献しています。特に日本のパッケージングは精度が良く、食品の品質を維持させる素晴らしい性能を備えています。
ひと昔前なら困難だった国産無添加ドライフルーツ誕生のかげには、名脇役の存在もあったのです。
取材も終盤になり、町田さんから少しだけ企業秘密ともいえるお話を聞かせていただきました。
美味しい無添加ドライフルーツを作るうえで特に注意を払うポイントは「糖度」と「水分」だそうです。
ドライフルーツといえども、ただ乾燥させれば良いというものではなく、水分を細かくコントロールすることが重要かつ難易度が高い作業だそうです。もちろん果物の種類によってコントロールの仕方は異なってきます。湿度に注意しながら表面と中心部の味と食感を均一に仕上げるためのマル秘技術が完成するまで、かなりの試行錯誤を繰り返したそうです。
ほぼ出来上がったドライフルーツは、最後の仕上げに独自の乾燥室(ムロ)で寝かせることによって味のカドが取れて深みが増し完成します。
こうして出来上がったドライフルーツは最良の状態で包装されて私たちの手元に届くのです。
ドライフルーツでみんなを笑顔に
ドライフルーツ専門店の開業から10年以上が経過し、地道に国産無添加ドライフルーツの普及に尽力されてきた町田さん。近年は得意先やリピーターも増え、ますます元気に活躍されています。
そんな町田さんの経営理念が「細く長く」継続していくこと。果物生産者を大事にして支えあうことで、自分も含めた関係者全員が良くなる商売をしたいと語ります。
長野県以外の果物の加工にも今以上に積極的にチャレンジしていくそうで、町田さんの噂を聞いた全国の生産者団体や自治体などが、その地域で生産された果物を持ち込んでくることも多いようです。
元々、果物店の経営からスタートしている町田さんは、果物生産者の苦労や努力を身近で見聞きしていました。少しでも地域の生産者の助けになりたいという思いもあって始めたドライフルーツ作りなので、生産者に負担をかけない取引を心がけています。
果物王国の長野県から始まった無添加のドライフルーツ作りは、和の心と技を融合させて今も躍進中です。
(記事:丸大)